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エクアドル人から学んだ事

村上奈央子

経済大国である日本。国際協力として多くの国に技術や知識を提供しており、それはエクアドルに対しても例外ではない。主に環境保全や防災などでの支援を行なっている。私たち日本人がエクアドルの人々から何か学べることがあるとすれば何だろうか。約2年間エクアドルに住んだ私の経験からお話しようと思う。

かれこれ10年前、当時東京で社会人をしていた私は付き合って4年になるエクアドル人の恋人とエクアドルに移住する事にした。とはいえ、スペイン語で自己紹介すらできない状態での移住は不安だったが、彼が生まれ育った国を見てみたいワクワク感の方が優っていた。彼のお陰で日本にいながらエクアドル人に出会う機会が多くあり、彼らには今まであまり感じたことのない不思議な魅力があるなと以前から感じていた。生まれ育った国が全く違うのにどこか懐かしいような、昔からの知り合いのような、自然体で接してくれる人が多かった。なぜこんなにフレンドリーに接してくれる人ばかりなのだろうと不思議に思っていたが、その理由がエクアドルに住んでみて分かったような気がする。
私たちが移り住んだのは首都のキト。赤道直下に位置するうえ標高が高いため、とにかく太陽を近く感じる事ができる。太陽の光を反射した雲が眩しいと感じたのは生まれて初めてだった。気温はとても涼しく日中は日本の春、夜は秋の様。オープンカフェに最適な気候だ。キトはグアヤキルについで二番目に大きな都市であるが自然が多い。公園での森林浴は心が洗われるようだ。また、街中を歩いているとハチドリによく遭遇する。人の指ほどしかない小さくて鮮やかな鳥が飛び交う姿はまるで妖精の様だ。この穏やかな気候のおかげなのかエクアドルにはおおらかで温かい人が多く、それは人々のふれあいにも大きく影響していると感じる。

エクアドルで生活をしていくためにはスペイン語は必須。週5でスペイン語を習う事にした。クラスへはバスで通った。一応時刻表は存在するが、時間通りにバスが来る事はほとんどなく、バス停に向かって歩いている途中でバスが通り過ぎて行くなんて事も多かった。そういう時はタクシーを呼ぶ時の様に手をあげると、なんと止まってくれるのである。降りる時も同様だった。バス停でなくても、路線上であれば『ここで降ろして。』と言うと降ろしてくれる。首都でも東京とキトでは大違い。時刻表通りにいかない原因はここにあるのではと思いながらも、なんだか心がほっこりしたものだ。

コミュニケーションの取り方にも日本人と大きく違う部分がある。それはお互いの呼び方だ。エクアドルでは初対面の人であってもmijo, mija (私の息子、娘)、amigo, amiga (友達)、hermano (兄弟)などと呼び合う事が多々ある。買い物をしに行った先で店員のおばさまから『私の娘よ』なんて言われるのだ。初対面だと敬語になりがちな日本とは大違いである。もちろん娘でも友達でも兄弟でもなんでもない赤の他人だが、それほど親しみを持って接してくれる。なんて馴れ馴れしいんだと不愉快な気持ちになることはなく、むしろ他人なのに繋がっているような、なんとも嬉しい気持ちにさせてくれた。

 

彼の親戚が私たちのためにウェルカムパーティーを開いてくれた時の事。初対面の私にもまるで長年待ちに待った人に再会したかのごとくハグとキスの嵐。スペイン語がまだ話せない私に身振り手振りで話しかけてくれ、音楽に合わせて一緒に踊り、私の皿にこれでもかというほど食べ物をついでくる。『あなたは娘同然よ。愛しているから何か困ったらなんでも言ってね。』そう言ってくれる人もいた。初対面で愛しているはないだろう。本心じゃないよね?彼に聞いてみると、『僕の彼女だから無条件に大好きなんだよ。』と。これからの生活に不安でいっぱいだった私にとって、これほど温かく迎えられる事はとてもホッとできる瞬間だった。日本人は初対面の相手に壁を持って接しがちであるが、エクアドル人にとってたとえ初対面であっても友達の友達は自分の友達、大事な人の大事な人は自分にとっても大事な人、そのように接してくれる人が多いように思う。

東京では電車は時間通りに到着し、サービスは親切・丁寧、何事も便利でスムーズに事が進み、お互いのパーソナルスペースを尊重しあう。しかし、孤独を感じることもよくあった。こんなにたくさんの人がいるのになぜそんな気持ちになるのか不思議で仕方なかった。もしかすると便利さ、効率性との引き換えにどこか人間味が失われているのかもしれない。
エクアドルの人々の様に他人であっても、初対面であっても、もっと親しみを込めてお互いに接する事ができればより素敵な社会になるのではないだろうか。

今年はエクアドルと日本の国交が始まって100周年。この記念すべき特別な年に息子が産まれた。エクアドル人の血を引く彼には、是非エクアドル人の良さを受け継いで、どんな人へでも愛情をもって接する事のできる人間に育ってほしい。

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